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名古屋高等裁判所 昭和49年(ラ)109号 決定

抗告人 井本英一

右代理人弁護士 滝沢孝行

主文

原決定を取消す。

本件競落はこれを許さない。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙即時抗告申立書写記載のとおりである。

本件競売記録によれば、原決定別紙目録記載の各土地(以下本件土地という)はいずれも農地であること、原裁判所は本件土地の売却条件を職権で変更して競買人の資格を県知事(農業委員会が農地法第三条により農地の所有権移転につき許可権限を有する場合は農業委員会)の交付する競買適格証明書を有する者に限定し、あらかじめこれを競売期日の公告に掲記し、競売期日においては同庁執行官が右特別の売却条件を告知したこと、本件競落人である尾之内安夫は本件土地の所在する愛知県知多郡阿久比町の区域外に住所を有する者であるから競買申出に当って愛知県知事の交付する競買適格証明書を提出することを要したにもかかわらず自己の住所のある愛知県知多市農業委員会長の発行するところの証明書(内容的にも同人が本件土地の買受適格を有することを証明するには不充分である)を提出したのみで、県知事の交付する適格証明書を提出することなく競買を申出たこと、同庁執行官はこれを看過して同人に競買を許し、他に競買申出をする者がなかったため同人が最高価競買人として呼上げられたことがそれぞれ認められる。

右事実によれば、本件競売期日における手続は、前記特別の売却条件に反する競買申出を許し、かつその競買人を最高価競買人として呼上げた点において瑕疵があり、その瑕疵は競売法第三二条、民事訴訟法第六七二条第三号の場合に準じ競落許可についての異議事由になると解すべきである。

また、抗告人は本件土地の所有者であり、競売手続が適正に実施されることにつき利益を有するから、利害関係人として右事由に基づいて競落許可につき異議を述べることができるというべきである。

もっとも、本件記録によれば、前記尾之内安夫は昭和四九年五月二五日付をもって本件競売による本件土地の所有権移転につき愛知県知事の許可を得ていることが認められるけれども、前記瑕疵により本件競売期日における最高競買価格の形成は当該期日において手続上競買人となり得なかったはずの者によってなされたこととなるのであるから、かかる瑕疵が事後においての農地法第三条に基く県知事の許可によって治癒されると解することは相当ではない。

よって、本件競落はこれを許すべきでなく、さらに新競売期日を定めるべきものであるから、原決定を取消したうえ本件競落を許さないこととし主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 綿引末男 裁判官 山内茂克 清水信之)

〈以下省略〉

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